「エイリアン・トリップ vol.01」 公認DIGGER 湯川カナとエジプト人のジーナさんによる北区・有馬温泉レポート!
Hola(オラ)!
エイリアン・トリップのカナより、北区・有馬温泉レポートです。
あの......「北区」、って!
有馬温泉。
草津、下呂とならぶ日本三名泉ですよ。
道後、白浜とならぶ日本三古泉ですよ。
他の温泉地なら、
" 休日に高速2時間くらい飛ばして、下道に入って道の駅に立ち寄ったりして40分くらいして「ああ、緑が濃いわ。やっぱり空気がきれいね。」なんて旅情がピークに達したところでおもむろに湯煙たちのぼる集落に到着" でしょう。
午前9時~17時の平日・日帰りミッションで訪れる先、しかも住所は「神戸市北区」って!
まさかこんなところまで調査区域「神戸市」に入るとは思いませんでした。
いったい、コーベは何を企んでいるんでしょうね?
あ、それを調査するのが仕事でした。
デハ、行ってきます。
朝9時、三宮駅前の広場「パイ山」到着を目指して、家を出ました。
率直に申し上げますが、ふだんは周囲に溶け込むため黒髪のカツラをかぶって生活していますので、地毛の金髪で自宅マンションのエレベーターに乗るのが、いちばん辛かったです。
「あら、○○ちゃんのママ、えっと今日は……」
ガン見しながらも訊きたくても訊けない感が横溢する朝8時15分の満員のエレベーターを想像してください。
ただその後、駅へ向かう坂道、神戸製鋼へ出社する清く正しいサラリーマンの波をかきわけかきわけ進むうちに、私はフカボリナビゲーターとしての矜持を取り戻し、顔をキリリと上げました。
先にこちらからガン見すれば、相手は目をそむける。
これは、「野外で用を足すときは、集団がいる方に顔を向けろ」という、四万十川の野糞師の教えを応用したものです。
ぜひ覚えていてください。
午前9時、パイ山で、本日の調査同行員「ジーナ」と合流。
「クレオパトラのような美人」としか事前情報がないという非常に雑なディレクションでもわかる、とても美しい方でした。
父がナポリ出身のイタリア人、母方がアレキサンドリア出身のエジプト人。
ご本人は料理家で、三宮でエジプト料理&ワインバーを経営。
日本に来てすぐ、タクシーの自動ドアを知らずに指を挟まれ、骨折したけれど笑顔でその場を立ち去ったという、極めて剛胆な女性です。
日本のミナサン、外国のひとがタクシーに乗るときには気をつけてネ!
9時20分三宮発の神戸市営地下鉄に乗り込み、谷上駅で神鉄に乗り換え。
三宮から10数分の時点ですでに、「ああ、緑が濃いわ。空気がきれい」状態。
有馬口でもう一度乗り換えると、10時前には有馬温泉に到着です。
観光案内所で、おすすめスポットを教えてもらいました。
南が上側になっている不思議な地図(有馬のひとにとって「山があるのは南」だからだそう)を受け取り、いざ出発。
【[%http://diiig.net/lw/13997/%]】
出発から1分後、まずは……一杯。
観光案内所向かいの「[%http://diiig.net/lw/13997/%]」です。
酒屋さんだそうで、キリンビール工場直送の樽生ビールに、神戸麦酒に、いろいろな酒。
観光客からハイカーまで、ここではみんな朝からガンガン飲むのだそう。
有馬温泉には、ほかにも、朝から開いているバーがちらほら見受けられます。
「日本人はまじめだから、お天道様がのぼっているうちは酒を飲まない」と聞きましたが、どうも有馬温泉は朝から酒を飲む場所のようです。
トテモよいですネ!
大豆の山椒煮をアテに乾杯しながら、料理家のジーナが熱く語ってくれたのは、「近くの三田で食べたアライグマの肉はとても臭かった」という話でした。
(ジーナのスマホ画面は、やはりアラビア語!)
【[%http://diiig.net/lw/13998/%]】
一杯飲んだら腹減った。
というわけで、山椒や昆布を試食しながらメインストリートをぶらぶら上がっていくと、「ここを素通りしてはならない」という濃厚な気配が漂っている肉屋さんが。
その一画、昔ならおばあちゃんがタバコ売ってたくらいの間口で、持ち帰り用窓口があります。
そう、なぜだかわからないのですが、コーベにおきましては、「評判の肉屋さんは、一画でコロッケやミンチカツを揚げて売っている」という法則がある模様なのです。
ということは、「その一画でコロッケやミンチカツを揚げて売っているのは、神戸で評判の肉屋である」と思って良いはず。
コロッケ130円、ミンチカツ250円。
どーしよーかなーと迷っていると、女性ふたりがササッと立ち寄り、慣れた様子で「コロッケ10個ね」と注文。
「ご近所の方ですか?」
すかさず調査入れると、笑われました。「私ら、滋賀」。
有馬に来たらいつも夕食に買って帰るのだといいます(おお、旅先の温泉帰りに、自宅で夕食をつくるという辛気くさいことをしないでよいとは!)。
しかも家族にも大人気だとか。
それは食べずんば調査にあらず。
というわけで、コロッケ1コ、ミンチカツ1コを買い、ジーナとわけわけしました。
う、うまい……。
実はこれまでミンチカツは、「揚げた段ボール」みたいなイメージしかなくてジャンルとして敬遠していたのですが、ここのミンチカツは「単に、肉を塩胡椒して揚げましたが?」という強気の肉感。スゲー。
当然のようにコロッケもまた、「良い肉をたっぷり、茹でたジャガイモとともに揚げましたが?」というシンプルさと美味しさ。
「美味しいものを食べると、なんでこんなに幸せなのだろう」と、思わず料理家のジーナと語り合ったほどです。
ちなみにジーナも私も、帰り道にまた立ち寄ってミンチカツをひとつずつ食べ、しかもコロッケをお土産に購入しました。
【[%http://diiig.net/lw/14000/%]】
OHセニョール、なんだかラテンの香りがするぜ!!
モダンでシックな店構えのドアを開けると、中は広々と落ち着くカフェでした。
珍しくもポルトガル料理のお店なんですって。関西で3店くらいしかないとか。
ポルトガル。
そう、タバコとか金平糖とかカステラとか火縄銃を日本に伝えたあの国。
私が10年住んでいたスペインと同じ半島を分け合う、毎月のように何度も訪れた、あの優しいひとたちの住む国。
店主の豊田康次郎さんはそのポルトガルの首都・リスボンで学んだ、ガラス工芸家。店内のお皿や照明、ガラスのすべてが作品なのだそう。
トイレまでアートになっている。心地よい空間。
裏庭とのあいだの大きなガラス戸を開け放った店内で、焼きプリン+シフォンの味わいがするポルトガル名物の菓子「セリカイア」を食べていると、ジーナがぴくんと反応した。
「この果物は、クローブで煮ていますね? とても懐かしい。エジプトでもよくします」
ジーナの夢は、エジプトのお菓子を日本で広めること。
地中海エリアの伝統的なお菓子は、砂糖や香辛料でしっかりと煮たり焼いたりした、日持ちのする保存食が多い。
これは、紛争の絶えない地域だからこそ、戦時の携行食としても発展してきたものではないか……というのが、ジーナの想像。
豊田さんとジーナとふたりで、お菓子談義。
ジーナが日本では生の良いプラムが手に入らないと嘆いていると、豊田さんが自分の仕入れ先を教えてくれました。オブリガーダ(ありがとう)、アミーゴ!
そして私は、ユーラシア大陸の西の果てフィニステラの話など。
現代版カステラ「セリカイア」を日本に伝えるセニョール豊田に、あまり行くことのないポルトガルの話、いっぱい聞くとイイデスネ。
あ、一緒に働いている女性はどうみても奥さんですが、違うということですよ。
【[%http://diiig.net/lw/14001/%]】
お昼時、たまたま美味そうな蕎麦屋を通りがかるという幸せ。
でも、ちょっと覗いたら、待っているひとがいる。
帰りかけたところ、お店の前で、おばさま4人組に記念写真のシャッターを頼まれました。久々のデジカメを手に、ハイ、チーズ。
デハサイナラ、と別れようとすると、「そちらも撮りましょうか?」。
なにかわからないけど、撮っていただく。
よくわからないから、ジーナもカナも、ポーズも表情も中途半端です。
そのおばさまたちが、なぜか声を落としてこっそり教えてくれました。
「ここね、コシノヒロコさんのご主人がされているんですって。いつもすっごい行列なのよ。芦屋に本店があるのよね。ミシュランも一つ星で……」
まーそうなんざますの? それじゃあ、私たちもまいりましょっか。せっかくですしね♪
すっかりおばさまモードになって、ちょっと並んで入ってみました。
ジーナはあたたかい生ゆば蕎麦。
カナは冷たいとろろ蕎麦。
まあ、美味しいこと。
「日本に来て、がんばって、できるようになりました」と、ジーナがお蕎麦をずるずるっ。
そして、以前、スペインに10年いたカナは、いまだに「ものをすすって食べる」という日本的所作をまだうまく取り戻せず、モグモグカミカミ。
短気な江戸っ子に「蕎麦をまずそうに食うんじゃねえ!」と叱られそうな食べ方なのですが、それでも美味しい。
本当に美味しい。
とろろにちょこんと乗っている、海苔とかゴマまで、いちいち唸るほど美味しい。
ジーナがカナに、生ゆばを分けてくれた。美味しい。
カナがとろろをジーナに……「いりません、絶対にお断り!」
ジーナはネバネバが嫌いで、エジプト発祥のモロヘイヤもだめなんだって。
というわけで、どなたがコシノヒロコさんのご主人か(だいたい本当にいらっしゃるのか)わかりませんでしたが、むら玄、美味しかった。
お茶も美味しかった。そば湯も美味しかった。
カミカミしかできない私でも、トテモ美味シお蕎麦デシタ。
なおメニューの「ゆば蕎麦」は「ゆず蕎麦」と読み間違えやすいのですが、「ゆば蕎麦」には吸い口に「ゆず」が入っているので、もし間違えて注文したとしても全体的にオッケーです。
【[%http://diiig.net/lw/14004/%]】
沙羅の花が咲き始めました。
そう、観光案内所で教えていただきました。
地図を手にいっぱい迷って、「まさかここはないだろう」という細い道を通って、沙羅樹園のある念仏寺に着きました。
▽[%http://diiig.net/lw/14004/%]のご本尊
もともと、豊臣秀吉の正室・ねねの別荘だったところだそうです。
「ネネ」はスペイン語だと「赤ちゃん」という意味ですが、こちらの「ねね」さんは赤ちゃんはいなかったそうです。不思議ネ。
みんなが慕うねねさんの別荘を、大阪ナントカの陣なんかがあって、徳川がすっかり壊し、新たな権力者である自分が信奉する浄土宗のお寺を移築した、という経緯なのだそうですよ。
朝開いた沙羅の花が、夕べにはポトリと落ちる。
・盛者必衰のことわりをあらわす。
・諸行無常の響きあり。
・「あゝ無情」とアン・ルイス(?)
いずれも平家物語の言葉ですネ(??)
受付で、住職さんの言葉が載ったミニパンフレットをいただきます。
「人間はもともと弱いのですから、ひとりで苦しまず、それを仏に任せてみましょう。
…
できたら、五億年も前から生きてきたような顔をして、ここの和尚と話をしてみましょう」
五億年前……カンブリア大爆発のころじゃないですか! ブッダよりもだいぶだいぶ前じゃないですか!!
突き抜けてます、[%http://diiig.net/lw/14004/%]。
生まれたての三葉虫になったきもちで、沙羅の樹に向かい合う座敷に腰を落ち着けます(座椅子も用意してあるのが、外国人には優しいネー!)
それにしても、気持ちよい庭。
うっとりと眺めていると、先代の和尚さんが通りがかられました。
そのおじいさまに教えていただきました。
「夏ツバキ」ともいわれる真白な花が咲いては散る樹齢300年の沙羅の左右には、大きなふたつの自然石が配されています。
左手が、雀。右手が、蛤。
なんでも蛤っていう貝は、雀が海に飛び込んで変わったものらしいぞ。だってほら、色とかそっくりじゃん。
そういう非常にざっくりとした古い言い伝えが、中国にはあるそう。
「万事はめぐる。それも、思ったよりもずっとずっとダイナミックにね」という意味だそうです。
ジーナとカナは、母国を離れたり家族と離れたり、さまざまな職を経験したりと、お互いの万物流転な人生について、とても長く、とても静かに、語り合いました。
なんだか、そういう思いをきもちよく引き出してくれる場なのです。
イタリア生まれ、エジプト育ちのジーナが言いました。「なんだか一回、ここに来たことがあるような気がします」
めぐるめぐる世界のどこかで、いま・ここに隣り合わせている不思議。
帰り際、「すごーく落ち着きました」と挨拶すると、おじいさまが手を合わせて「それはなにより嬉しいお言葉ですな。ご縁です」と送り出してくださいました。
あたたかーなきもちで外に出ると、なにやら賑やかな声。
あっ、さっき蕎麦屋の「むら玄」で記念写真を撮り合った、おばさまたちだ。
今度はジーナがみんなに、「ここ、とても良いですよ~」と熱烈お勧めしてました。
ウム、ご縁ですな。
ちなみに、春のしだれ桜もそうとう見事で、花見の隠れ名所なのだそうです。
なんせ、しだれる桜の真下にベンチがある。
降りそそぐ桜の下、めぐる世界で隣り合う愛を、語ってください。
五億年も前から生きてきたような顔をして。
【[%http://diiig.net/lw/14003/%]】
行き道にぶらぶらつまみ食いをしていているなかで、なんと全商品に試食がついていて、そればかりかお出汁の試飲もさせるお店がありました。
料理の研究をはじめるとき、まずは和食から学んだジーナ。
いまや、至福の食事は、「炊きたてのごはん&お漬け物」。
[%http://diiig.net/lw/14003/%]で、お出汁に、松茸昆布をお買い上げー。
私も、お出汁に、山椒塩。
ふたりとも、おまけに昆布醤油がついてきました。
……あ、[%http://diiig.net/lw/14003/%]でいっこ買い忘れていたことに、レポートを書いているいま、気付きました!
「辛皮(からか)」
山椒の木の皮の佃煮。観光案内所で聞いてたのにー。
九州のひとがこれを食べて「うひゃー、がばい辛かばい!」と言ったのが名前の由来、という話はまったくありませんが、とにかくとっても辛くて、とっても美味いのだそうです。
ま、「旅先の忘れ物は、またおいで、ということ」と言いますし。
また次回来ましょうネ!
それにしても、有馬温泉のお土産屋さんは、どこもデザインが洗練されています。
山椒、漬け物、竹製品。
どれも昔ながらのものなのに、きちんとパッケージを整えている。
有馬温泉が遠方からの観光客を引き寄せつづける魅力がそんなところにもあるのだろうと、あらためて思いましたヨ。
というわけで、ついに有馬温泉を出る時間です。
肝心のお風呂は入れなかったので、また次回。
でも足湯もあるし、ガッツリお風呂入らなくても、じゅうぶんに楽しめます。
三宮から30分で着いちゃうし。
ほら、もう駅には電車がいるよ!
……と飛び乗ったのが大失敗。
……とわかるのは、40分後なのですが……。
電車のなかは、ジーナとカナのおしゃべりタイム。
「私は人間として生まれたから、生きる国と、死ぬ国を選ぶ権利がある。そして、日本を選びました」
ジーナの言葉です。
「大変なときもありました。でも、どんなに苦しくても、人間にはそれを乗り越える力が、必ずある。人生は悪いことばかりじゃない、良いことも必ずあります」
うん。私もそう思うよ。
ねえジーナ、今日は、「良いこと」だったかな?
「はい。今日はね、本当に来て良かった。有馬は、最高です。正直いうと、これまでちょっと軽く見ていました。観光地だ、って。でも今日、それは違うとわかった。感動しました。日本人なら、ここは知って欲しい。すごく良いところを、肌で感じられるから」
素晴らしい言葉で感動のクライマックス……のはずが、電車がちっとも三宮に着きません。
17時をまわったところで、終点・新開地。
ん?
……あっ! なんかまったく違うルートで帰って来ちゃった!!!
行きに乗った「神戸市営地下鉄」とは異なり、帰路は新開地まで直通(新開地止まり)の「神鉄有馬線」でだったようです。
慌てて阪急に乗り換えようとしても、乗り越し精算マシンで「この切符は清算できません。ピンコーン♪」と言われるし。
そんなこんなで、ゴール地点の三宮パイ山に戻ったのは、17時20分。
北野坂にある、ジーナがひとりでやっているレストランは、18時開店。
ご、ごめんなさい……。
「大丈夫! なんとかなります。辛いときこそ、笑いますよ!」
ジーナは飛びきりの笑顔で去って行きました。素晴らしい女性です。
そして私はひとり、パイ山でミッション完了のポーズ!
北区・有馬温泉。
旅情あり、歴史あり、うまいものあり、温泉あり。
行き交う旅人たちとの一期一会の交流あり。
なんだか、1泊2日くらいの旅をしたようでした。
これが、市内だなんて! 三宮から30分だなんて!!
無茶苦茶ですネ、コーベ!!!
<今回のエイリアン・トリップは、この2人がお届けしました>
・湯川カナ
長崎県生まれ。早稲田大学法学部在籍時、Yahoo! JAPANの起業に関わる。1999年、スペインへ移住。スペイン在住時に「ほぼ日刊イトイ新聞」の連載をきっかけにライターに。2009年、帰国後、現在は神戸で生きる知恵と力を高める「リベルタ学舎」を立ち上げ活動中。
・エジプト人シェフの藤原ジーナさん(母がエジプトアレキサンドリア、父がイタリアナポリ)
象ビルでお店をしています。
ダイニングバー・ジーナ(Dining Bar [%http://diiig.net/lw/13999/%])
http://jinabar.seesaa.net/article/206514336.html
ジーナさんがアラビア語で書いてくれた文章の日本語訳です。
「神戸は自分でもよく知っている「まち」です。
その神戸の温泉、有馬温泉は、日本の中のどこにでもある観光地の温泉だと思って、正直、甘くみていました。
でも実際にゆっくり有馬温泉を訪れてみたら、その思いはまったく違ったものとなりました。
日本の温泉は世界でも有名です。
その温泉で有名な日本の中でも、有馬温泉の歴史は古く、1600年もの昔から皇族・貴族・文化人、そしてたくさんの人々に昔から今まで愛されてきた日本で一番古い温泉です。
有馬温泉に来ると、日本のとても良いところがたくさん発見できました。
日本を、日本の心を深く知ろうとする人なら、私は必ずここに来た方がいいと強く思いました。」
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