彫刻家で「Love Stone Project」主宰の冨長敦也が世界中で感じたお話 vol.07「別府市・別府駅北高架商店街編」

彫刻家の冨長敦也です。今日は、大分県別府でハートを磨いた話をしますね。
お恥ずかしながら、50ウン年の人生の中で、大分県に行くのも別府を訪れるのも初めてのことでした。その別府は、宇部市で産声を上げたLove Stone Projectが、県外に飛び出した最初の場所になったんですよ。
どうかな？・・別府と言えばイメージするのは温泉でしょ。
でも、磨いた場所はなんと商店街。しかも、頭の上を電車がゴトゴト走る高架下にある、今まで味わったことのない、なんともほんわかムードの商店街なんですよ。

大阪に住むぼくは、まず、伊丹空港から飛行機で大分空港へひとっ飛び。スーツケースには、京都のアトリエで彫ったイタリア産のトラバーチンという石のハートを大切にプチプチで何重にも包んで入れて行きました。大分空港には、無理を言ってお手伝いいただいた、宇部のミュージアムの学芸員、お二人にお迎えにきていただきました。ほんとにほんとに助かりました。当時、Love Stone Projectは、まだ宇部で生まれた石磨きの赤ちゃん。その初めてのお出かけを心配していただきました。遠いところを感謝です。
三人が乗った青空色の車は、そのまま別府駅へ。途中、温泉の湯けむりが、何度もぼくたちを手招きしましたが、何とか誘惑をたちきって別府駅へたどり着きました。

別府駅の目と鼻の先、北に歩いて5分。そこにはハートを磨く別府駅北高架商店街の入り口がありました。まぁなんとも、不思議な入口です。天高く、白い鳳凰がはばたいています。

それはまるで、夢の国の入り口・・。
ぼくらは、ドキドキしながら、その奥に吸い込まれていきました。
全長50メートルほどのかわいい商店街は、床・壁・天井にも、入口の雰囲気のまま、なんともあたたかいペインティングが描かれてます。
なんなのでしょうかね？この安心できる空気感は？
今、全国的にどちらかと言うとさみしい商店街が多い中、こんな商店街は、初めてです。
両脇には、いろんな魅力溢れるお店が並んでいます。
カフェや古着屋やパン屋さん・・etc
今回、ぼくらは,この商店街で定期的に開催されているスローリーマーケットに参加したのですが、その窓口として、お力をいただいたのが日名子さんです。日名子さんは商店街で、これもまた素敵な雰囲気のレコード屋さんを経営しています。

まるでドラマのセットのようなアットホームな雰囲気に浸りながら、飛行機で持参したハート磨きの用意をして、さっそく石磨きスタートです。

商店街ということもあり、いろんな人が磨いてくれました。
来る人来る人、なぜかあたたかい人ばかりで、見たり聞いたりしたこともない、石のハート磨きを、みんなでワイワイ言いながら磨いてくれました。

近所の買い物の人、別府に住んでいる海外の人、別府市役所の人・・
大阪から初めて来たぼくを、ハートを磨きながら、心から歓迎してくれたんです。

そうこうしていると、その日は、劇団員による紙芝居が始まったのです。

迫真の演技で紙芝居を演じる役者さん、それを、聞きながらみんなでハートを磨く人の輪。
少し不安もあった別府でのLove Stone Projectでしたが、そんな心配は、感情がこもったセリフを聞いているといつの間にかどこか遠くに消えてしまいました。

ちょうどその頃、ある女の子がお母さんと磨きに来てくれたんです。

水汲みまで、手伝ってくれたんですよ

女の子は最後まで石を磨き、ハートの完成を自分のことのように喜んでくれたんです。
ハートが輝きぼくたちがほっとしていると、その子は、ハートと戯れているんです。
まるで、昔からの仲の良いお友達とおしゃべりしているように・・

そして、いつの間にかそのハートの上に波乗りのように立ち、バランスを取りながら、ピカピカになったハートを身体で感じてるんです。

女の子がハートに立つ光景は、今後の人生をこのプロジェクトに捧げる勇気を与えてくれました。
生まれたての彫刻に素足で立つ。もしかしたら、数万年続く彫刻の世界で、歴史的な一コマかもしれません。

ミケランジェロやロダンは、表現の結晶としての石の彫刻を彫ったわけですが、ぼくは、愛と平和をみんなで祈るキーワードとしての石の彫刻を、世界中の人とともに磨いていきたい、その勇気と覚悟を、この高架下の商店街で持つことができました。

みんなのためにみんなで作るみんなの彫刻、人類の中でひとりぐらいはこんな彫刻を夢見る彫刻家がいてもいいんじゃないかなぁ、と思えた別府のLove Stone Projectでした。
次回は是非、温泉につかりながら、みんなで磨きたいです。

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冨長 敦也 / Atsuya Tominaga
彫刻家 / Sculptor
世界各地の人と、ハートの石を磨くプロジェクト「Love Stone Project」主宰

1961　大阪市生まれ
1986　金沢美術工芸大学大学院 美術工芸研究科 絵画彫刻専攻修了
1988　大阪中之島緑道彫刻公募にて受賞（大阪府）
1990　第3回三田彫刻コンペティションにて特別賞受賞（兵庫県）
1997　（財）ポーラ美術振興財団在外研修助成を受けイタリアにて滞在・制作
1998 　神戸学院大学創立30周年記念モニュメントコンクールにて一位指名（兵庫県）
2013　　LongHouse Reserve(NY)に作品がコレクション
　　　　　Love Stone Projectを開始
　　　　　第25回UBEビエンナーレ[現代日本彫刻展]にて大賞受賞（宇部市）
2014　「冨長敦也のハートボイルド展　世界をつなぐ未来の彫刻」(ときわミュージアム　宇部市)

　　　　　NY・パリ・イタリア・東京・大阪等　国内外で個展開催